※続きは永遠に書かないと思われる徐遼なメモ書き置き場です。※ (当時から徐晃は無意識に嫌いだったことがうかがえるような…) (それぞれ別のお話でした。) 「貴公のことが好きでござる。」 「・・・気の迷いでしょう。」 張遼は視線など一度もくれてやらぬまま、鋭い横顔だけを許して言い放つ。 「・・・そんなものではござらぬよ。」 苦笑を滲ませたような声で徐晃が答えた。 諭すように、口説き落とすように、優しく続ける。 「人を好きだという気持ちはそんな簡単に褪せてしまうようなものではござらん。目には見えずとも確かに存在するものでござる。一時の熱などではなく、永遠に心に在り続ける尊いものでござる。」 徐晃は自分の発言に少々浸っていたかもしれない。 だが普段は気の利かぬ奴と冗談で誹られていることもあり、彼なりに必死で紡ぎ出した心からの言葉である。 その言葉に張遼は引き攣った笑みを浮かべた。 「・・・はは。それは詭弁でしょう。想いは変化もするし、色褪せて、無くなることもある。・・・そういうものでしょう。」 何かが上滑りしていくような張遼を、徐晃はひたすら見つめる。 その乾いた持論を、なんとか訂正させようと、朴念とした頭を最速で回転させる。 私の貴方への想いは、そんなものではない。 そんな悲しい物差しで量るのはやめてくれ。 「張遼殿、それは違う。私は本当に、」 「もうたくさんだ!」 張遼は声を荒げた。 乱暴に立ち上がり、やっとその顔をこちらへ向けてくれたかと思えば、熱を持った両の瞳が射殺さんばかりに徐晃を貫いている。 「確かに、それに浮かされている時はそれを不変のかけがえのないものだと、ともすれば永遠だとも思うでしょう!だがそれは間違いで想いとは、色褪せて、無くなるものだ!」 「違・・・」 「もうやめてくれ!」 決して手放さなかった己の武器を、自分と徐晃の間に突き立てた。 風と沈黙が二人の間を通り過ぎる。 愛を囁いていたはずの場は、いつの間にか殺傷器さえ登場する剣呑なものとなってしまった。 徐晃はそんなにも自分は信用の無い者なのかと落胆した。 彼の心はそんなにも潤わないものなのかと。途方に暮れそうになった。 蚊の泣くような声で、柄を握りしめた張遼がやがて囁いた。 「そういう・・・ことにしておいてくれ。でなければ、でなければ、私は永遠にこの熱に囚われて身動きできない事になってしまう・・・。」 唐突に徐晃はあの男の背中を見た。 彼は潤いを受け入れぬ器なのではない。 既に滾る油を許容量限界まで満たしているのだ。 後から自分が水を注いでみたところで、器は気付きもせずそれをはじき返すのだろう。 徐晃の問題ではない。 徐晃など、問題ではないのだ。 「なっ…離されよ!」 もがく張遼をなおも強く抱きしめる。 徐晃の頬には一筋の涙の通り道ができていた。 「拙者では駄目なのでござるか…」 「・・・何を言っておるのか解かり申せぬ。とにかく離していただきたい。」 「呂布の背中はもう無いのですぞ。」 張遼の動きがピタリと止まった。 「呂布は、貴公にはもう何もしてやることは出来ぬの・・・」 静止したはずの張遼の体が爆発するかのように動いた。 右腕が跳ね、徐晃の脇腹を抉るように殴り上げる。 「かはっ・・・・!」 思わずその小さな体に回していた腕をほどき腹を押さえて膝を付いた。 いくら戦で無敗を誇ろうとも、思いがけぬ攻撃にはどんな対処もできない。 張遼は押し殺した声を徐晃に振りかけた。 「・・・彼の方に何をして頂こうとも思わぬ。私を土足で踏みにじるのは止めて頂きたい。 私を痛めつけに来たのか傷に付け込んで手に入れようとしたのは考えないでおくことに致します。 お引取りを。」 一部の隙もない、殺気ばかりのこもった声だった。 |