001:初めて
「張遼どの・・・。」
しまった逃げられないうっかりしていたていうかきもい。
宮殿の片隅のとある回廊のつきあたり。
張遼は徐晃に発情されていた。
「今日こそは拙者の想いを受け止めて頂くでござるよ。」
「は・・・ははははは。何の事ですかな。」
身をひねってかわそうとするも背中には石壁、もう逃げ道は無い。
「とぼけても無駄でござるよ。拙者と夜明けのコーヒーを飲むでござる。」
鍛錬後に「良い汗かいたでござる」と言っている時と同じ笑顔で徐晃は張遼に迫った。
左右の行動の自由を阻むように突き立てられた徐晃の両腕。
「さぁ・・・観念するでござる。もう逃げられないでござるよ。」
え 、 力 ず く で す か ?
「冗談は酒の席のみで・・・」
お願い申し上げる、と言いたかったのだが、彼はもう聞いていなかった。
「大丈夫でござる、拙者、精一杯優しくするでござるよ。」
徐晃のぶっとい指が張遼の腰に回り、尻を撫で上げた。
ヒィイイイ勘弁してくだされ揉むな尻を!!
別段張遼の尻が男のくせに柔らかいとか意外と桃尻だったとかそういうことは断じて無い。
どこをどうしても戦国武将の尻である。
そう、彼はヒゲも立派な魏の勇将、戦闘能力は徐晃と同等以上のものであるはずだった。
しかし無双通信のパラメータ表で礼儀度数がMAXな性格が災いし、こんなところまで押し込まれてしまった。
しかしもう限界である。
そんな設定かなぐり捨てて「いい加減にしやがれこの脳味噌筋肉が」と言い捨て金的攻撃で逃げ去りたかった。
しかしそれによってそっち系に目覚められたらもっと恐い。
なんかもうこいつは張遼になら脳天カチ割られても悦んで身悶えしそうだ。
「拙者、初めては絶対好きな人と、と決めていたでござる。」
徐晃は恋する乙女ばりに恥じらった。
「・・・・・。」
「ちょりょどの?」
「・・・初めて?」
「それがどうかしたでござるか?」
「・・・徐晃殿、貴殿は今年でお幾つにおなりですかな?」
「33でござる。」
つまり、この男は。
33歳童t・・・ッ!!
信じられないマジありえないホント勘弁してくれ。
もう涙目で張遼はカタカタ震え出していた。
背後には石壁、体の両脇には筋骨隆々とした押せども引けどもびくともしない徐晃の腕。
逃 げ ら れ な い !
「ちょりょどのッv さぁいざッ・・・!」
徐晃が瞳を閉じてぷるぷる震えながら顔を接近させた。
張遼は武将の腕力をフル活用で徐晃の額と顎とを押し返そうとするが、どうしたことか
二本の腕の力が徐晃の首の筋力にかなわない。
MAJIでKISSする5秒前。
「たっ・・・助けて奉先様――!!」
キャアアアアアという絹を裂くような高い悲鳴が、夜の城に響き渡った。
しかし、間一髪悲鳴を聞きつけて夏候惇が駆けて来たので、徐晃の初めてはさらにお預けになる事になったのである。
(張遼の唇を奪われた夏候惇が怒り狂って青龍刀を振り回したとか、
徐晃がその後一週間は唇をさすりながら
ニヤニヤしていたとかは、また別の話である。)
どうしようもない。
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