3.花




同僚が、徐晃殿からのラブ・アタックが、すでに心の中でフォローしきれないほどうざい。

他の同僚や上司までもが気の毒がって彼の猛攻を止めようとしてくれるのだが、その話を振ると奴は
そこらの少年よりも無垢な瞳で私のことを語るそうなので、止めるに止められないそうだ。

ていうか上司は半分は面白がっている。
自分の従兄弟も神経ピリピリしだしたので面白いと思い始めたらしい。
どいつもこいつも。


最近心がすさんでいけない。

心を慰めようと厩に足を運ぶと、

「あっ、張遼殿。」

郊外まで見回りに行っていた彼が部下数人を連れて帰ってきたところだった。
うわあ一番会いたくない奴に出会ってしまったとか思っても逃げ出すわけにも行かぬ。
愛想笑いでねぎらって切り抜けようか、いや微笑みかけると喜ばれるのかと数秒葛藤。
しかし私がどうこうするより先に、単純細胞が見慣れぬものを無骨な手で差し出した。

「張遼どの、これを。」

節くれ立った男の大きな手に、似合わぬ清楚で華奢な白い花。
思い出そうとしなくても勝手にまざまざと蘇る記憶。

「郊外に咲いていたのでござるが、張遼殿に似合うかと思い、摘んできたでござる。」

そう言って差し出された白い花は。

・・・かつての主君が寵姫に手ずから摘んで差し出したもので。

(貂蝉。これを、やる。)

「やはり、よく似合うでござるな♪」

(お前に似た花だ。…よく、似合う。)



思い出して切なくなって涙が出た。
















「…貴公の目には私は彼女のように映っているのか。」
それって武将として馬鹿にされているんじゃなかろうか。
「いやそれより貴公は殿が彼女にしたように私に執着しているというのか。」
それってもうきっと手がつけられない。


混乱した頭のままで口から出た独り言。

その台詞が白キノコの耳に届いたかなんてどうでもいい。










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