020.恋心




「なあ張遼。」

酒瓶を乗せた卓を挟んで向かうは武人が二人。

「はい?」

星を愛でようなんて言い出したはずが言の葉に乗るは馬と刃の話ばかり。
しかも話の中身が無粋だと双方今の今まで気付きもしないで、
それなりに楽しく飲めちゃってたりしてたわけで。

気付いた夏候惇は急な軌道修正を試みた。

「お前、俺のどこが好きだ?」

「・・・は、あ?」

…急すぎたようだ。

どうして張コウ殿の鉤爪の話からそんなところへ話が飛ぶのかと怪訝そうな目をする。
視線に射抜かれて首が縮む思いだ。

「…い、いや…ただちょっと気になってな…」

「もしかしてそれが聞きたくて今日この席を?」

設けられたのですか、と問われて、別にそうだったわけでもないが、
適当にそうだ、と頷いておく。
心の中で自分はもう気を利かせようとするのはやめようと誓いながら。
慣れないことをしたところで今回のコレが関の山なのだから。

夏候惇の恥をよそに真剣に考え込む礼儀の男。

「…優しいところですね。」

「…優しいところ?」

強いとか顔とか声とか言われるかと予測とはいかないまでも考えていたが。

「左様。」

「…優しいか?」

多少面食らった夏候惇が鸚鵡返しに問う。
ええ、とても、と力強く頷き返された。

「あの方と違って無理強いはされないし。
 翌日のことに気を回してくださるし。
 理不尽なことでキレませんし。
 政務で溜まったストレスをぶつけても来られない。」

実感篭りまくりでこぶしまで握っちゃう張遼を、
あーそっかお前の元彼アイツだもんなあ、とか。
イチイチ比較されてんの、俺?とか。
ちょっと遠い目で眺めたり、カチンときたり。

「本当にそうなのですよ。
 話は通じないし、すぐあらぬ嫉妬して私に当たるし、
 挙句の果てに私を置いて勝手に死んでしまわれるし!
 夏候惇殿はそんなこと一切なさらぬからな!」

ぐい、を杯をあおる。
一人で憤慨し、一人で悦に入る。
褒められているらしいのは大変結構だが。

「…お前、よく俺の前で前の男の話なんかできるな。」

今彼の俺の前で。

怒るというよりは呆れたような夏候惇。
不快でないわけはないが、怒る気にはどうにもなれない。
それはこの男と居られるという満足感が憤激を頭打ちで殺いでしまうからか。
だとしたら俺ってなんて安い…

そしたら張遼は、待ってましたと言わんばかりにとっておきの甘い声で彼の思考を阻んで。


「私が好きになった夏候惇殿は、
 昔の良人の話を持ち出しても怒らず、変わらず私を好きで居てくれる、
 心の広い優しい御仁でありますから。」

してやったり、と笑った。


しばし笑顔に当てられる夏候惇。
間を必要としてからなんとか気を取り戻すと、

「…まあ、惚れたほうが負けって言うしな。」

苦笑しながら息を吐いた。

実際、付き合うようになってから、
この才知と武勇を兼ね備えたうえ、プライドと桁外れの魅力まで思いのままにしている恋人に対して、
強気に出られたことはない。

惚れた弱みと言わずして、なんと言う。


優しいをいいことに浮気をするわけでもなし。


仕方が無いので。

「ああ、負けたよ。」

嬉しそうに笑う綺麗な顔をした恋人の唇を舐めた。
















色気のある話ってどうやったら書けますか?
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