033.犬



いっそ犬だったら可愛がってやるのに。


どこへ行くにも尻尾を振ってついてきて。
とても賢くて人間の言葉を理解して、むやみやたらと人に吠えず、お手もお座りもできる利口な犬だったら。
それでたまに冗談で言った命令を真に受けて敵の大将の首なんか取ってきたりすれば良いのに。

白い大きな犬で、毛は短くて触るとかたい毛が気持ち良いんだ。
休日には庭の芝生の上でブラッシングをしてやって、一緒に昼寝をしたりするんだ。

命令に忠実で、待てといったら待つし、
分を弁えて、私の前は決して歩かず、寝台にも上がってこない。

そんな犬だったら。


ところが現実はそんなに穏やかでない。
暇さえあれば呼んでもいないのにやって来て、
ござるとかござるとかござるとか言ってくるし、
変な頭巾かぶってるし、
人間のくせに皮肉もいやみも遠まわしな拒絶も気付かないし、
まあお手とお座りくらいはするだろうけど、
敵の大将の首も取ってきたりするけど、
有り得ないタイミングで手を握ってこようとするし、
待てといっても待たないし、
あわよくば人の寝台に乗っかって不穏なことをしようとたくらんでいるので、

あのでかい図体には絶対触りたくなんか無い。


不幸なのは、それが斬って捨てられる部下でも後輩でもなくて、
先輩で目上で同僚だということだ。






毛嫌い。
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