044.喧嘩 さっきから。 夏候惇殿どのが私の目の前で何やら怒鳴り散らしている。 これは何だ、 ヒステリーですか? 何が最初のきっかけだったのかはもう覚えていない。 関羽どのがどうだとか。 呂布どのをまだ引きずっているのかとか。 私の目が死んでいるとかなんとか。 溜め込んだウップン全部吐き出すつもりですか? なんていうか、それらはもう一通り、耳タコです。 しかも、なんていうか見事に勘違いです。 既に一度思いっきり張られた頬はじんじんしている。 手を上げるのはやめてくださいよ、馬鹿力なんだから。 それにアレだ、夕べ言ってたじゃないですか。私の顔が好きだって。 果てしなく続きそうなお説教?お説教なのこれ?に、黙って聞き続けていた張遼が いい加減我慢の限界。 悄然としたふりで眺めていた庭のカラスも山のほうへと消えたことだし。 こきっ、と気味の良い音を立てて張遼の首の角度が変わる。 思いつくまま悪態をついていた夏候惇に、ようやく声をかけた。 「ちょっと黙られよ。良い事教えて差し上げます。」 伸びて来た親指と人差し指が、しゃべり続けていた唇を摘んだ。 払い落とそうとした腕は掴まれ、細められた青い目が夏候惇を見た。 「貴方は私のものなんです。」 夏候惇は三度瞬きをしたあと。 へにゃ、と眉毛を下げた。 |