張遼とか夏候惇とかがゴールドなセイントだったりするダブルパロなお話です。(聖闘士☆矢大好き!
しかも試験作なのでやたら説明臭くて多分楽しいのはワタシだけです。

それでもいいよ、という方だけスクロールどうぞ☆































乾いた風が岩場を通り抜けていく。
暑い夏で、雨はもう何日も降っていなかった。
サンクチュアリのあるアテネは地中海性気候に属しているため、夏の間は晴れの日が多く乾燥している。
ましてや聖域は山頂に位置し、空気は澄み湿度が低いため十二宮からの展望には息を飲む。
そこからのんびりと景色を楽しむことを許された数少ない者にとっては、だが。


「そこで何をしているんだ?」


背後からかかった低い声に、宮へと上る階段のてっぺんに腰を下ろしていた男が振り返った。
現れた男の靴音は限りなく消されていたが、振り返った男は驚いてはいない。


「ここへ来るとは珍しいな。」


何、通りがかりだ、と応える声には疑わしい何者も潜んではいない。
気の置けない同僚である。


「驚かそうと思ったんだが気付いていたか。」

隻眼の男は少し悔しがるようにそう言い、すぐ横で立ち止まって腕組みをした。
下方に広がる景色をざっと見回すと、すぐに興味を失い座る男に目線を落とす。
夏候惇にとっても、この風景はさほど珍しいものではない。
多少の高度の差はあっても、彼も宮を守護する十二人の一人だ。


「驚かそうと思っていたのか?
 貴方の強大な小宇宙は二つ先の宮からでもわかったぞ。」


張り詰めた闘気ではないが、聖闘士の力の結晶であるその体は常に強大な小宇宙とともにある。
もちろん、ただそこに座って下界を眺めている張遼にも。


「何を見ていた?」


一度目と違い、再度の問いは本当に疑問をはらんでいた。
別段変わったものも、騒動も見当たりはしない。


「聖闘士と、聖闘士になりかけの者達を。」


張遼は髪をさらっていくその風のように爽やかな笑みをこぼした。
ギリシアの夏は暑い。
が、聖域十二宮には高地ゆえの涼気がある。
ただしそこに住まえるものは一握り。
アテナの尖兵たるものの多くは裾に広がるいくつかの村に住んでいる。

鍛錬となる場は十二宮から良く見渡せた。
聖域は森林が少なく、岩山か荒野が多い。


「雑兵たちか?」


張遼は頷く。
称号こそ雑兵であるものの、年若い少年少女たちはまだ成長過程であり聖闘士の卵ともいえる存在だ。
雑兵という見下した意味さえ伴う呼び方をするのはどうかと思う。


「アテナのため、地上の平和のため、自分のため。
 色々な目的はあろうが、みな力を求め一心に修行に励んでいる。
 いい光景だとは思わないか?」


下界に視線をあてがったまま張遼は笑んだ。
風に乗って遠いこの場所にも汗とかけ声が届いてきそうだ。


「この地で育ち修行した貴方には心動かされる風景ではないのかもしれないが。」


見上げられた夏候惇は中華の出でありながら修行地はここギリシアである。
だが張遼は同じ出身ながらも北欧で師についた。
生活環境の厳しい、人とも会わぬ過酷そのものの暮らしだったという。
無駄の一切を省く張遼の性格をまるきり北欧の冬のような男だと評する者もいるが、
夏候惇は写真でしか見たことのないそのモノクロの世界の、
白い雪の神々しさと黒い森の魅惑の美しさを連想してその例えを気に入っていた。



夏候惇は張遼と同じ段に腰を下ろしてそのまま寝転がった。
頭上には見慣れた青空が広がっている。
聖域は天気の良い日が多いらしく、それも女神のご加護だと言っている輩も少なくないが、
真偽のほどは定かではない。
どこからかプァーという角笛の音が聞こえてきた。


「…アテナのいない聖域は緊張感に欠けるな。俺は早いところの降臨を望むぞ。」


ぽつりと、夏候惇が洩らした。

聖域にアテナがいなくなってから百年。
長い時が過ぎたが、再び現れるのはまだ数百年先だろう。
自分達は空位の時代に生まれてしまったのだ。
張遼はその挑戦的な口調に苦笑した。


「アテナが降臨なさる時はポセイドンやハーデスの危機が迫った時ということだ。
 女神の聖闘士としては、女神にお会いできないことは確かに残念だが、
 それだけ地上が平和ということだろう。これは喜ぶべきことではないのか?」


「まあな。そういう言い方もできる。
 だが、例え海神や冥王が進攻してきても、地上の平和も女神も守り通せるだけの力は
 あるとは思わんか?」


数度手のひらを開閉してみせる。
張遼は彼にしては珍しい、短い笑い声を上げた。

「傲慢だな。」

「そうか?」


諌めるようなセリフだが、顔が笑っている。
おそらく多少同感してもいるのだろう。
鬼神と呼ばれる男は、きっと海神軍も冥王軍さえも恐れてはいないのだ。
それでも生来の真面目さゆえに彼の口はそう答えているだけで。


「…海神や冥王が攻めてこなくとも、地上は人間の紛争や大事故でいっぱいだ。
 退屈だというならそちらの仕事を率先して引き受けてはどうだ?
 人間相手の戦いは人間がするべきだが。」


聖域は、基本的には人間同士の争いには手を出さない。
聖闘士はその圧倒的な力ゆえに味方についたものに絶対の勝利を与えてしまうから。
そういうことになってはいても、平和を愛する女神の代理教皇は、人の手に負えない大惨事には
秘密裏に数人の聖闘士を派遣する。
選抜は手の空いた者、内容に適任な者などから教皇が無造作に選ぶ。
だが志願者がいれば、真っ先にその者を任命してくれるだろう。


「人間の争いは人間に、ね…。
俺たちも一応人間だぞ。」


皮肉げな夏候惇のセリフを、静かに張遼が訂正した。


「否、聖闘士だ。」


人間らしい楽しみや自由な生活は許されない。
腕を磨き、体を鍛え己を高めても、生活が豊かになるわけではない。
出張仕事をしても給金が出るわけでもなく、弟子を取っても名誉にならない。


それでもそれが苦にならないのは、聖闘士であるという誇りがあるからだ。


人間らしい、生活や楽しみを求めるよりも、アテナのために。
愛と地上の平和のために。
そう思って我らは体を鍛え続け、その拳に力を溜め続ける。


聖闘士であることは最大の喜び、最大の誇り。
その意思は聖闘士最大の共通点なのだ。




「…だがな、張遼、俺は時々それが虚しくなる。」


体を半回転させた夏候惇は張遼に不穏とも取れる発言をした。
二人の間に僅かな緊迫感が生まれる。


「なにを…」


「だから、今晩は飲みに付き合え。」


瞬きする間も無く夏候惇は破顔した。
一拍遅れて張遼も意味を理解し苦笑する。
聖闘士とて晩のプライベートな時間くらいは保障されている。
騒ぎさえ起こさなければ、町に下りて居酒屋をはしごすることも。


「…残念だが今日は弟子の修行を見てやる約束だ。」


わざとそっけなくそう言うと夏候惇が張遼の腕を捕まえた。
意地の悪い笑みを浮かべている。

「弟子なら筋トレでもさせとけばいい。崖に突き出た枝に脚をかけて腹筋千回とかな!」

それこそついていてやらないと命が危険だとも思うのだが。


「お前は、俺と街で朝まで飲む。いいな?」


強引な物言いに張遼は形だけ眉をひそめてみせた。


「…教皇の前でも同じことを言うのだな。」


全聖闘士の頂点に立つ教皇は最も女神への信仰が深く、最も強いので最も恐い。
張遼の強い人贔屓すなわち教皇贔屓ももう慣れたもので、夏候惇は多少の嫉妬を振り払うと
わざと機嫌の悪い声を出した。
すねると張遼が構ってくれるのを知っているからだ。


「ああ?知るか。たまには聖闘士も休業させろ。」

「不遜な。」


張遼が笑った。
笑っている。
聖闘士の卵たちを見守る時よりも、まだ更に優しく。


自分にも他人にも厳しいことで知られる鬼聖闘士が、実は聖母のように優しいことを、
おそらく同僚の夏候惇だけが、知っている。


「だが、…仕方ないな。」

夏候惇は、
陥落した張遼の高く澄んだ声を、うっとりと聞いた。


張遼は、
師に指導を受ける時間を楽しみに待っている弟子に、心の中で詫びた。

きっと今晩は同僚と飲む。

















きっと弟子は大好きな我が師に構ってもらえなくてダークサイドに目覚めるんだ…!(違うお話です
聖闘士は容姿ごと転生するものだなんて、信じない!よ!
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