079.過去



 お前はとても強さにこだわる男で。
ひいては勝利にこだわる男で。

過去の大きな失敗はお前を大きく抉り、なかなか塞がることを許さない。


今でも時々守れなかった主人のことを思って一人で泣くのだ。

一旦そのスイッチが入ってしまうと、現在の世界にいる俺など目に入らなくなってしまうらしく、
毎度俺は数歩の距離まで近付くもののお前を手に入れることができなくなってしまう。

その姿は今にも涙と一緒にこぼれて消えてしまいそうに儚くて、
月の光でさえ彼を傷つけるのではないかというほど弱々しい。
俺がいるんだから他の男のこと考えるなよ、とか腹を立てるより先に、
その痛みをなんとかして取り去ってやることはできないだろうかと考えてしまうほど。

壊さないように優しく肩を抱いて、涙を拭ってやろう。
背中をさすって、耳元で呟いてやろう。

「その失敗は、俺と出逢うために必要な過程の一つだったのだ。」

そう言ってやろうと思ったのだが、泣いている本人を前にしたらとてもじゃないが言えなくなってしまった。

そして他の男を想って流す涙のために胸を貸してやるほど心が広くも無い俺は、
夜空に押しつぶされそうに弱った彼を、見なかった振りをして、
そっと扉を閉め、一人にしてやることしかできない。

いつかそう言える自信が持てればいい。
いつかそう言える自信を持ってやる。
いつか。














謙虚なのかチキンなのか。うん、チキンだね。






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