94.デ・ジャ・ヴ
今日も奴は私の後ろを着いてくる。
「張遼どの、おはようでござる。」
「やや、張遼どのいかがなされた。」
「張遼どの、昼食を一緒にいかがでござるか。」
「今日は冷えるでござるな。」
一日に妙に顔を合わせる回数が多い。
きっと私を探すなり待ち伏せるなりしているのだろうが。
しかし私にはそれに応える気は全く無いわけで。
「申し訳ないが、これから殿に呼ばれているので、ご一緒は出来かねる。」
できるだけやんわり断るようにしているのだが、本来の性格からして遠まわしではあまり真意が伝わらないことが多い。
「…そうでござるか。
(がっかりという顔。そのまま諦めてくれ。)
では、また明日お誘いするでござるよ。ではご免♪」
(ああやっぱりまたか。)
引き際は妙にいいのだが毎日来られては言い訳の種類も尽きようというもの。
部下の話では「今日も張遼殿とお話できたでござる♪」とか浮かれている姿も目撃したというから涙も誘われる。
初恋に浮かれる少年少女じゃないのだから、歳相応の態度を示していただきたい。
同格の武将であるということで立場上強く出るわけにも行かず。
この同僚、元々口数の多い方ではなかったはずだ。
だとすれば彼が私をいかに想ってくれているかがわかる、わかるにはわかるのだが。
しかし私にはそれに応える気は全く無いわけで。
半端な期待などさせないほうがよろしかろうとか気遣ってはみるが、どうも最近逆効果に思えてならぬ。
戦になれば複雑な陣も策も築いて見せる彼だがどうにも私事ではその細やかな機微がわからぬらしい。
他の面でずば抜けて成長した分、そういう面だけ成長しなかったのだ。
きっと頭の中も外側の頭巾のように真っ白なのだろう。
(その白さが、私には妙に眩しい。
いや眩しいというか・・・気恥ずかしい。
何故だろう。)
武人らしいいかつい顔が頬を染めるなど見ていられるものか。
しゃべることなど苦手なくせにそんなに必死になって話しかけなくて良いから。
ああ調練用の斧など持ったままこちらに走ってくるな危ない。
飯など一緒でなくても十分食えるだろう。
そう思うのに彼は一向に私を気にかけるのをやめてくれない。
イヤだ、恥ずかしいやめてくれ。
ふと、「好意を向けられているのにどうしてこんなに嫌なのだろう」と気付いた。
「張遼どの、どちらへ行かれるのですかっ?w」
張遼どの、張遼どの、張遼どの、
名前を幾度も呼び、いつも後ろからついて来る。
ふとデジャヴにかられて考え込んだら記憶にあるそれは紛れもない自分の姿で。
(殿、殿、呂布殿、)
眩暈がしてその場にへたり込んでしまった。
「ど、どうしたでござるか張遼どのっ!!」
ちょっといささか多分しばらくいや結構かなり立ち直れない。
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