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黒い鬼の住む白く巨大な帝国を統べる美貌の皇帝が、夏候惇に口付けていた。

この国に来て以来何度目かの硬直に襲われる。
腕は命令を失い顔を引かれたバランスを取ったまま。
瞬きも忘れ。

彫像のようになった夏候惇の唇を湿った温かいものがつついた。

 口を開けろと?

目眩がした。
体が勝手に命令に従い顎の力を抜く。
彼の舌は夏候惇の上下の唇を軽くなめ、歯の隙間を割って口の中に進入した。
腕の所在に迷っていることと口付けにされるがままであることが未だ困惑の中にあることを表現していたが、
舌先が夏候惇の舌に触れると、夏候惇は思い切ったように目を閉じその舌を吸い上げた。
張遼は一度薄く目を開いたが再び閉じると口付けに没頭した。

「…さすが軍団を与る大将軍殿。
 決心なされば大胆だな。」

「…陛下ほどでは。」

突然このような行為を仕掛けてくるその思考回路に唖然としたことを指して言えば皇帝は口の端をつり上げて笑った。
お前はしっかり応えたではないか、と。
突然の口付け、だがまるで夏候惇の心を読んだかのようで一層タチが悪い。

「…何故。」

「ん、良いことを思い出したのだ。」

繊細な手が再び夏候惇の顔に伸びた。
女でもないのにその爪は染料で桃色に染められていた。

「中華の国々では、戦に勝った国は敗戦した国を好きにしていいのだろう?」

手は夏候惇の口髭を撫でる。

「負けた国の将軍を召し抱えるも首をはねるも、その国の女を犯すも自由なのであろう?
 今は私が勝った国の君主、そなたが敗軍の将。」

すなわち、お前を好きにしてもいいのだろう、とそう言われたのだと悟らされ夏候惇は全身が粟立った。
彼を抱きたいと言葉にして意識するよりも先に抱かれようとは。
しかも回避不可能らしい。
ひどい顔で硬直したのを見て張遼は声をあげて笑った。

「ははは。
 おののいておられるな?
 …安心なされよ、色男の大将軍どのは抱かれるより抱くほうが得意であろうからな。
 特別に私が抱かれてやろう。」

またさらりと問題発言された気がして訝しげな夏候惇の視線を受けて苦笑する。

「では貴方は抱かれるのが得意なのですかなどと下らぬ質問はするなよ。
 本当に首を切り落とすぞ。」

「…は。」

再び張遼は夏候惇の唇を啄む。
男の唇など吸ってもうまくないだろうに、楽しげに。

「…なんだ?
 抵抗しないのか?
 男に口付けされているのだぞ。
 やめてくだされーと言って逃げないのか?」

張遼の腕が夏候惇の腰に回される。

だが振りほどき逃げ惑ったりなどしない。
頬に触れているもう片方の手を捕まえると、残りの手で張遼の腰を力強く引き寄せた。
顔をうずめれば彼の栗色の髪からは南国の果物の香りがした。
耳元で切なく低く甘く囁く。

「逃げたりなど致しません。
 俺こそ、貴方を抱きたかったのだから。」

そして、夏候惇から口付けた。




















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