03



翌日。
一行はまだ涼しいうちに出立した。
馬にはわずかな荷だけを乗せ、人は徒歩になった。

密林は視界が悪く昼間だというのに薄暗い。
行く先々を枝や蔦が邪魔し、思うように進めなかった。

「これでは…すぐに方角が知れなくなりそうだな…」

そう苦々しげに呟いて間もなく。
夏候惇は違和感に気付いて立ち止まった。
それは第六感とも虫の知らせとも表現できたが、長年将軍職を務めてきた者にとってあまた感じた敵意。
害意殺意の有無まではわからない。
ただ何者かがこちらを凝視しているのは確かだ。

「…将軍、どうかなさいましたか。」

立ち止まった夏候惇を不思議に思い、すぐ後ろに従った男が問うた。

「何かが…いる。」

呟くほどのその声はしかし、全員の耳に届いた。
さっと彼らの顔に緊張が走る。
馬を背後に回し、それを中心に円陣を組む。
戦慣れした者にとっては造作ない行動だった。
夏候惇以下兵士達は遠目の利く優秀な者達だったが、草木うっそうと生い茂るその場ではその能力も十全に生かせるべくもない。
樹や葉の作る影に目を凝らし、耳にも神経を集中させるが、怪しい者の姿はない。
たが兵士達も敵意を感じ始めた。

「…獣では…?」

「そう思うか?」

兵士の頼むような問いに夏候惇は問い返して答えた。
答えを知っていて問うている。

そして、突如としてそれは現れた。

突然黒い影が頭上に降った。

「上!?」

誰もが頭上の警戒を失念していた。
影は馬の上に危なげなく着地する。
彼らは開けた場所での大戦では勇者だが熱帯雨林での戦いは経験がない。
枝を伝うことも蔦で移動することも念頭になかった。
影は、いやその人物は鞍の上に着地した体勢のまま夏候惇を見つめていた。
夏候惇の体を戦慄が駆け抜ける。

見たことのない人間だった。
全身が黒馬のように黒い。
黒装束ではない、その服装はどちらかと言えば裸に近かった。
肌も髪も唇も瞳も全てが真黒いのに、白目だけがガラスのように白い。

夏候惇だけでなく、全員が目を見張り硬直していた。

「しょ、将軍!」

悲鳴と同時に複数の黒い人間が奇声をあげ繁みから飛び出した。
姿を現すまで全く存在を気付かせない漆黒の部隊、不幸のようなそれらは円陣を作った夏候惇達十数人を完全に包囲していた。
いや、事態はもっと悪い。円の中心馬の上に、一人が油断なく佇んでいるのだから。

「クソッ…!」

夏候惇は舌打ちして剣に手をかけた。















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