08




「では問おう。
何が目的で我が領土に侵入した。
中華の国は遙か北方の国と聞く。
半端な理由ではその行程、踏み抜けまい。」

祖国の存在を知っていた、そのことにも驚いたが弛緩しかけていた夏候惇の気を引き締め直したのは遙か昔賜った玉命と、その声の鋭さ。
理解できる言語で聞く皇帝の声は、一瞬前の自分が甘いなどと酔えたことが不思議なほど怜悧で激しかった。
いっそ高い声が余計に他者を寄せ付けない。
打たれたように夏候惇は頭を垂れ、何度口の中で練習したかわからぬ口上を述べ上げた。

「陛下をこの白き帝国の皇帝陛下とお見受けいたします。
拙は遙か北方、中華の国曹魏で将軍を務めます夏候にございます。
玉謁を賜りましたこと、深く感謝致します。」

玉座の男は口の端に皮肉な笑みを浮かべ、形の良いひげを撫でた。

「ほう、将軍どのであったか。
曹魏と申す国ではこのような扱いも謁見と申すか、安穏なことよ。
して、夏候将軍は僅かな手勢で何をしに参られた?」

「拙は武人ゆえ飾った言い回しができませぬ、単刀直入に申し上げることをお許しください。
我が国主より誼を結んで来いとの仰せで貴国へまかり越しました。」

「…すでにわかると思うがこの言葉は私にとって外国語、不慣れだが私より扱える者が他におらぬ。
お飾りの美麗字句など欲しいと思わぬ、時間の無駄だ。
だが誼、と申すか。」

「は。」

「北方では交戦を挨拶代わりと使っておるのか?」

「いえ、この件は部下をまとめられなかった拙の不徳の致すところ。
平に、平にご容赦賜りたく存じ上げます。
都合の良すぎる申し出だとは重々承知。
なれど我々にはこう申し上げるよりすべは無いのです。」

皇帝はしばし沈黙していた。
冷たい汗が背を伝うのを感じながら、夏候惇はじっと待つ。

「貴殿の言い分は確かに聞いた。
そして私としても遠き国から参ったそなたらには興味がある。
しかし何の罪も無しで放逐することは断じて出来ぬ。
明日までに処置を決めるゆえ今日は牢に入っておれ。」

は、と吐息のような声で夏候惇が返すと、皇帝がまた母国語で何事かを臣下に告げ、更に臣下から兵士に命令が飛んで
兵士が夏候惇の腕をつかみ上げて引きずり退出させた。


重い扉が閉まり、夏候惇はまっすぐ石牢に連行され閉じこめられた。
先に連れてこられていたと見え、彼の部下達もすでにそこにいた。

ぐるりと並んだ顔を見渡し、欠けている顔が無いことを確認して夏候惇はやっと息を吐いた。
一時間と離れていたわけでもないのに、もう何日も見ていなかったような、そんな気の詰まる、濃い時間だった。
だが緊張の余りどこか記憶が夢現の気がして、夏候惇は目蓋を閉じた。


視界に暗闇が訪れれば浮かび上がる、あの白い顔。
耳に残る澄んだ声。
不思議なほど、しばしそれに浸っていたいという思いが満ちている。

だが夏候惇は残った気力で瞳を開け残滓を追い払うように頭を振った。
不安な面持ちで夏候惇を見つめる部下たちに、何が起きたかを説明してやらねばならぬ。

















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