10 翌日の昼過ぎ、約束通り夏候惇たちは全員牢から出ることができた。 黒人兵士達の態度も幾分軟化しているようだった。 驚いたことに中華の言葉を使える者が通訳として一人使わされていた。 「言葉を代理しますアリと言います。よろしく。」 アリという男は赤い石と白い貝殻の二連の首飾りをしていた。 はっきり言ってほとんど見分けることができなかった夏候惇はそれを目印にしようと考える。 彼の発音は皇帝ほど完璧とはいかなかったが、ありがたいことに代わりはない。 しかし人間とは思えない黒い生物が自分達の言葉を話す姿はなかなか信じられないとも感じた。 アリは誠意のうかがえる態度で一行を王城の敷地内にある小さな建物に案内した。 そこを夏候惇達で使っていいとのことで、多少なりとも言葉の通じる侍女と兵士が三人ずつ控えていた。 驚いたことに彼らの馬と積み荷までそっくりそのまま届けられていた。 荷は中身に一度目を通してあるようだったが、無くなっているものはなかった。 取り上げられた剣でさえ。 何か欲しいものはあるか、と問われ全員できれば体を清められるほどの湯が欲しいと答えてアリを笑わせた。 「すぐ持ってきます。食事も。」 彼らの扱いは捕虜から一転客となったわけだが、その間に荷物も馬も何一つ損なわれていないことは信じられないことだった。 この国はよほど下のものまで教育が行き届いていると見える。 改めて国の頂上にある者を思い出した。 「それから、将軍は王がお会いになるので私と一緒に来てください。」 続けてそう言われ夏候惇は戸惑った。 「…今すぐにか? できれば身支度なりさせてもらいたいのだが。」 昨日は侵入者として急ぎひったてられたので仕方がないが、身分に余裕のできた今となっては決して皇帝に目通っていい格好ではない。 アリは大丈夫、と答える。 「こちらで支度を整えます。 風呂もご用意あります。 王は忙しいので時間通りしたい。」 そう言われれば断ることもできない。 見送る部下を残して夏候惇は一人従った。 帯刀はさすがに自粛したがあの重みがないと多少心細くもある。 |