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湯を使い、荷の中にあった正装に着替えひげを整えるとやっと気が引き締まる。
祖国では特権的に鎧姿ばかりだったので着心地はしっくりとはいかなかったがそれでも綺麗な布地が気持ち良かった。
きちんとした身なりをした夏候惇を見たアリが少し驚いた顔をしていた。
こちらの服は金糸などの華美さはほとんど無く、布地も絹は見かけない。
よく見れば非常に細緻な刺繍が施されているが、中華が好む絢爛な色彩には乏しかった。
服だけでなく、国全体にも言えるかもしれない。
興味深そうに眺めるアリを逆に促して夏候惇は王の元へと向かった。


「…昨日の場所とは違うのか?」

ここです、と連れて来られた場所は昨日とは違う扉の前だった。

「はい、公式な謁見の前にいくつか話し合いをします。」

正式な国使との謁見となればほとんど行事と変わりない。
こちらにはこちらの作法があるのだろうとそんな風に理解した。

『将軍をお連れしました。』

こちらの言葉だったが、おそらくそのようなことを言ったのだろう。
扉の向こうから声が返ってきて扉が開かれた。

中はさほど広くはない部屋で、書卓に皇帝ともう一人が座っていて、その間に一人立ち、背後に二人兵が立っている。
皇帝は今日はその白い首に何連もの小さな貝の首飾りと金の環を身に着けていた。
こちらの人々は、衣服の布地に華美は求めないが、宝飾具は相当好んでいるらしい。
首といわず手首に、耳に色々な飾りをつけている。
だがそれらはまた、宝石ではなく木を加工したものや貝や真珠が多い。
産出品の違いであろうか、などと普段は装飾品には興味など持たぬ夏候惇だが、何とはなしにそう思った。

「どうぞ、かけられるがいい。」

皇帝は、声も表情も、緊迫していた昨日よりも格段に優しい。
書卓の向かい側の席を勧められたが、それより先に夏候惇は伏礼し口上を述べた。

「遥か南の白き帝国の皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しく。
拙は北方の中華曹魏よりまかりこしました曹魏左軍大将軍夏候惇と申します。
昨日は乱暴の上数々の非礼、誠に失礼いたしました。
この度の寛大なるお許し、恐悦至極に存じ上げます。
二度とこのようなことが起こらぬよう、部下共々祖国に誓ってお約束致します。」

「…そちらではそのようになさるのか。
わかり申した。
では後ほどの式典時にはそうして頂こう。」

皇帝はそう言うと、きりりと表情を改めた。

「だが今回の件に関しては既に牢からは出したがまだ言わねばならぬことがある。
…かけられよ。」

促されて座るとまず隣の男が紹介された。

「こちらはアファル。
我が国の宰相を務める。」

その名前はアファルかアハール、そのように聞こえた。

「彼はそちらの言葉がわからぬゆえ後ろに通訳を控えさせた。」

夏候惇は黙って頷く。

「改めてにはなるが、私はこの国で君主を務めている…、」

彼は多少言い淀み、

「そちらの言い方では張遼と言う。」

と明快に告げた。

張遼、と夏候惇は口の中で繰り返す。
その名は妙に冷たく甘い味がした。

「…陛下は随分と我が国に詳しいのですね。」

夏候惇の国では幻の地、遥か南に存在するかもしれない地、としか伝わってはいないのに。


















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