13 宰相が消え二人で昼食を摂りながら交わした情報は大変有意義なものだった。 その中でも最も夏候惇を驚かせたのはここが目的地ではなかったということだった。 いや、正確には、目的地はここで、目的地が目的地ではなかったということなのだが。 「ヤノワミではない?!」 「ヤノワミは我が国の北東にある。 将軍は西に進路を取りすぎたのだな。 だがそれで良かったのだと思うぞ。 ヤノワミは数家族単位で移住を繰り返す、国家を持たぬ集団だ。 数も多くないから連絡の取りようもなく国交というものもほぼ存在しない。 加えて人以外何でも喰う連中で、まず馬は奪われていたな。」 言われた時には夏候惇は絶句したし、張遼も驚いた顔をしていた。 どこからそちらの名が流布したのか。 幻の地の名ゆえまず不確かだとは思っていたが湾曲して広まっていたとは。 夏候惇がもたらした情報がいかほど彼の役に立つのかはわからないが、彼は少なくとも中華に興味を持っていることは確かだった。 正式な交渉は行えなくとも、伝えられることは多々あるのだ。 いつしか、夏候惇は自分ばかりが話していることに気付いた。 皇帝は静かにそれを聞いている。 元々饒舌ではないはずの自分がいつの間にかとりとめもなく話し続けている。 「…その…、俺、私は、話すことはあまり得意ではないので… 退屈させてはおりませんか?」 聞けば爽やかな声が返ってくる。 「とんでもない。 面白い話ばかりだ。 それに将軍は声が良いゆえ聞いているだけで楽しい。」 お笑いの一欠片もない口調でそう言われて訳もなく照れた。 照れるなど。 たかが声を褒められて。 張遼は終始笑顔だった。 昼食を終え、アリが迎えに来て夏候惇は皇帝の前を辞した。 夏候惇達の兵舎へ向かい歩きながらアリが口を開いた。 「陛下はよくこわい顔をしているといわれますが、とてもいい人です。 とても私たちのことをよく考えてくれます。 いい陛下です。」 誤解しないで、と言いたいのだろう。 だが夏候惇にはその言葉は必要なかった。 「こわい顔? 皇帝陛下が?」 意外そうに問えば逆に意外そうな顔をされた。 「大丈夫だぞ? 陛下は物静かでよく話を聞いてくださるし、聡明で優しい方だろう。」 それに美しい、と言いかけて口を閉ざした。 男を美しいなどと。 自慢の陛下を褒められて気を良くしたのか、アリは先導しながら口数が多くなっていく。 対照的に、夏候惇は兵舎が近くなるにつれて与えられた刑について部下になんと説明したものかと深く考え込んでいった。 |