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騒いだとて籠の鳥はどうすることもできず。
餌を与える手が優しいことを願うのみ。

与えられた刑を説明された夏候惇の兵たちは散々に戸惑い怒り怒鳴ったが、結局は受け入れるしかできず、殺されまいと、己と己の武器の手入れを始めた。
戦場だと思えばいい。
ここをいつもの戦場だと。
殺されるか、先に倒すか。
それだけだと。

世話に付いてくれた侍女はそんな夏候惇達の緊張を感じ取ってか、おびえた様子で最低限の言葉しか話さず、衛兵に至ってはほぼ口をきかなかった。
皇帝や通訳が友好的な態度で接してくれたため誤解しそうになったが、やはりこの国の人間にとっては夏候惇達は侵入者で仇なのだ。
不満は誰も漏らさなかった。
食事は質素だが十分な量があったし、生活する衛生面もきちんとしていた。
おそらく基本的に意識水準が高く、人間に優しいのだろう。

そう、人間に。
現皇帝とその母である前王妃の前例のおかげで、夏候惇達は同じ人間であると認識してもらえていた。
夏候惇達が彼らを見た時は、黒い鬼だと恐怖し殺害に及んだというのに。
今でさえ夏候惇はともかく部下達はまだ同じ生き物であると認めきれていない。




平穏なまま二日が過ぎた。
皇帝の言った復讐者とやらは現れていない。
誰も失われていないことに安堵しながらも、長引けば長引くほど正使として迎え入れてもらえるのが遅くなると内心複雑である。
何よりすることがなく暇であったので、考えごとをする時間が増えていった。
夏候惇達の一行は二人が一命を取り留め、十四人に落ち着いた。
アリの報告によるとそちら側で失われたのは三人であるから、刑が言われた通り完了したなら十一人になっているだろう。
夏候惇の部下達は全員が兵士ではない。
こちらの技術を知るためと伝えるための武器や装飾品の職人が存在している。
彼らに剣を持てとは言えぬので必然的に職業兵が警護にあたった。


その日の午後、歩み寄りの初めの一歩があった。
武器職人の乍という男が兵舎の入り口警備にあたる黒人兵に、話しかけたのである。
挨拶を交わし言葉が通じることを確認した乍は、彼らの手にした槍に興味を持ち、それを貸してくれないかと頼んだのだ。
もちろん貸し渋る彼らに対して、乍は身軽に兵舎内に戻ると仲間から槍を一本借りて代用品として差し出した。
元より皇帝の賓客となるだろう人物達であることは知っていたしそこまで頼まれては断りきれず、一人が手にした槍を乍に渡した。
乍は喜んでその槍を借り受け部屋に戻って思うままそれを検分した。

刃はもちろん鉄でできている。
柄はこちらの種だろう堅い木、刃と柄は組み合わされた後木の皮を寄って作られた丈夫な紐で緩みなく締め付けられていた。
その紐の間に巻き込まれた美しい装飾品がある。
ガラス玉、鳥の羽、革紐。
装飾品がついているからと言って、それが祭典などに使われる装飾用の一振りでないことは刃の使い込みようでわかる。
柄は丈夫で堅いがしなやかで軽い。
逆に刃は厚く、重心が極端に前にある槍だった。
これならば長く振り回しても疲れが少ないし、投げるのにも適している。
何より装飾が美しく舞う。
乍はその造りと美的センスに感動し、全神経を集中させて丁寧にその刃を研いで衛士に返した。

そして今度は衛士が驚く番だった。
乍が研いだ刃は今まで見たことが無いほど均一で見ただけでその切れ味が想像できる。
交換で借りていた槍も同じように研ぎ澄まされていた。

そして、そこで初めて両者の意志をもって会話がなされたのだった。

武器は武人の命。
どこの地でもどの人種でもそれは変わらない。
乍は驚くほど自然に、無意識の内に二つの人種の溝を狭めた。
おそるおそるだったが、他の者も続いて話しかけ、黒い衛士たちは熱心にそれに答えた。

その様子に戸惑いながら次女達が食事を運んで現れ、衛士達が心配ない、と告げたのか夏候惇にかけられた声も幾分柔らかくなった。
そして笑んで礼を言った夏候惇の顔を見て、その態度はみるみるうちに警戒を解いた。

あっと言う間に、壁が崩壊したのである。





















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