18



すれ違う者たちが訝しげな視線を夏候惇に投げつけてくる。
それらは友好的とはほど遠い。
まあ仕方のないことだ、と苦く噛みしめた。
同胞を殺した、見たこともない得体の知れない外邦者なのだから。
ある者は目を見開き、またある者は眉間にしわを寄せ。

堂々と歩く皇帝の後を追いながら、ふと違和感に気付く。
何かが足りない気がする。
これでいいのかという気がする。
その違和感は夏候惇を緊張させた。
不審ではないように慎重にあたりを見回したが、それが何なのかはわからない。
城の造りだろうか。
造り自体は見慣れないが、構造上問題は見当たらない。
広い石造りの廊下を、左右に働く者たちが分かれ、中央を二人が歩く。皇帝が先に、その後を夏候惇が。
何も変わったことはないように思うのだが。

「将軍、こちらだ。
 眉間にしわなど寄せて、いかがした。
 珍しいのならば明日明るいうちに案内させよう。」

ふと気が付くと張遼は横に折れている。

慌てて夏候惇も体の向きを変える。

「あ、申し訳ございません。」

「二人で歩いていて迷子になられるなよ。」

くすりと笑われる。

「は…申し訳…」

途中まで口にして、違和感の正体に気付いた。
自分たちは二人で歩いているのだ。
皇帝が、いくら自分の城の中とは言え護衛を付けずに。
増して、夏候惇という不審者を従えながら。
夏候惇の国主を思い浮かべて明らかに動揺した。
なぜだ、いいのか。
先ほどの視線の様子から、信用されていないようなのは明らかなのだが。
あの訝しげな態度の意味は、これだったのだ。
もし夏候惇の主が一人で歩こうものなら夏候惇こそが叱る。
張遼は全く頓着せずに歩いている。
この国では、これが普通なのだろうか。


「将軍、ここだ。」

ほどなく、二人の衛兵が立つ扉にたどり着いた。
部屋へ入っていった張遼の後に続こうとした夏候惇を槍が阻んだ。
交差したそれは明らかに部屋に入ることを禁じている。
衛兵が夏候惇に何事かを怒鳴った。
言葉がわからないで睨み返すと、張遼から声がかかり二本の槍がためらいがちに引き下がる。
部屋へ入った夏候惇はすぐに静止された理由を悟った。
その広い部屋には、中央に大きな寝台。
天蓋付き。
その他、値の張りそうな調度品。

どう見ても寝室。

入り口で硬直した夏候惇ごしに、張遼が衛兵に声をかけ、二・三のやりとりの後扉が閉められた。

「こちらに来てかけられよ。」

テラスに面した窓側に置かれた書卓で張遼が手を招く。
ごくりとつばを飲み込み、夏候惇は何でもない、と心の中で繰り返しながら席に着こうとした。

「怒られてしまったよ。
得体の知れない男を寝室に入れたから。」

張遼は笑って言う。
何と返事したら良いかわからず、夏候惇ははぁ、とか気の抜けた声を出した。

「それで…何の話だったかな?」

「…陛下。」

「うん?」

「その、良かったのですか?
 私は入ってしまって。」

困り果てた夏候惇を見て張遼が笑う。

「…うん、まあ皇帝の寝室には清掃係と妻以外入ってはいけないことになっているからな。
 だが…まあ私が連れ込んだんだからいいんじゃないか?」

 連れ込んだ…
その表現はどうかと思うが。
あっさりとそう言う張遼に目眩さえ覚えながら夏候惇が問い重ねる。

「陛下には御正室が?」

「いや、いない。」

それを聞いたところでどうなるのかはさっぱりわからないが。
わからないが未婚と聞いて明らかに心踊ったのも事実だ。

 …これは自分相当本気かもしれない。

書卓の脇に立ち尽くす困惑極まった夏候惇を張遼が楽しそうに眺めていた。


















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