19 「どうしてその素性のあやしい男を単独で、しかも寝室に、衛兵もいない状態で招き入れると思う?」 扉の向こうに兵が控えている、では意味がないだろう。 もし何かあった時には遠く遅い。 夏候惇が考えを巡らせ、思いつかずに張遼を見上げると、彼は顔を寄せて意地悪げに笑った。 「答えは簡単だ。 私がこの国で最も強い戦士だからだよ。」 冗談を、と笑い返そうとして触れた腕がまるで国政には必要ないほど筋肉質であることに気付いた。 露出の低い服ゆえに直接体つきを見ることはできないが、そういえば、身のこなし、足運び、動作は優雅というよりもきびきびと 一切の無駄がなく武人的だった。 皇帝ゆえの威厳で目隠しされていたが、そうだ、あれは武人の歩き方だ。 ゆるゆると理解していった夏候惇を彼は面白そうに眺めていた。 夏候惇はどうにも彼のことになると判断が鈍る自分に気付き、苦笑した。 「…ならば一度お手合わせ願いしたいな。」 「なぜ笑う? 私の言葉を信じていないのか。」 とたんに不機嫌になって張遼が夏候惇をにらみつける。 「そういう意味では…」 まさか本当のことを言うわけにもいかず言い淀んだ。 その間を別の意味に受け取った張遼は機嫌を急降下させてしまう。 個人的なことで気分を害した様子を今まで見せなかっただけに、突然の勘気に戸惑う。 張遼にとって武力が最も神聖な部分であることを知るのはまだ先のこと。 「…将軍がお望みならおしゃべりはやめにしようか。」 怒りをはらんだ声で張遼は立ち上がり、夏候惇の眼前に迫った。 足りない身長分、鋭い目が夏候惇を見上げている。 ゾクリと肌を粟立たせるものが背筋を走った。 「あー…」 皇帝の勘気を被ったというよりも張遼を傷付けたと思い夏候惇は弁明をと思うのだが、とっさの言葉が出てこない。 「お気に障ったのなら謝りま…」 白い手が顔に伸びてきて夏候惇はビクッと体を竦ませた。 顔と同じく白いその手は夏候惇の顔の横を通り、首筋から下ろしたままの髪の中へと潜り、有無を言わせぬ力でその頭を引き寄せた。 何を、と問うより早く夏候惇の口は薄い唇にふさがれていた。 驚き見開いた瞳に映るは皇帝の閉じた瞳。 まつげの長さが焦点距離の内側にあって歪んで見える。 視界に広がる白。 張遼の、顔。 |